「永い言い訳」に見る、冷え切った夫婦仲の温め方【西川美和】

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妻が死んだ。

 

これっぽっちも泣けなかった。

 

そこから愛しはじめた。

 

 

という鮮烈なキャッチコピーが残る小説原作の映画

について今回は語ります。

 

予告編

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あらすじ

 作家の衣笠幸夫は、妻の夏子が友人とともに旅行に出かけるのを見送ったその日に、彼女が事故死したことを知らされる。もっとも、彼女のいぬ間に不倫行為に没入していた幸夫にとっては、さして悲しい出来事ではないのが実情だった。

 

この映画、病んでいる時期に観てしまった。最後の洗濯物を幸夫が

畳むシーンで呆然とした記憶がある。見たくもない感情に向きあわされて、

グリグリやられるような作品です。

 

 

夫婦仲が冷え切り、不倫も感情が動かず

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映画は、幸夫が妻に髪を切ってもらうシーンから始まる。明らかに

冷めきった夫婦。旅行に出かけたすきに不倫相手を招き入れる旦那。

 

次の朝、妻が事故死したことを知らされる主人公ですが、冷え切って

いたのだから涙も出ません。ここから、妻が亡くなってから逆に

妻を意識しはじめるというなんとも哀しい展開です。

 

 

同じように妻を失った友人、陽一と出会い子守りを始めるのが

またこの作品の辛いシーンです。

 

ある種の罪悪感を、誰かの役に立つことでぬぐおうとした

結果のように見えます。

 

 

どれだけ拭おうとしても、逃れられないため幸夫は

妻の死と向き合い始めます。

 

その過程で妻が自分を愛してはいなかったこと。

 

 

実は妻のことを何も知らなかったことを

思い出しはじめます。

 

 

妻を失って始めて、自分が忘れていたことを思い出し

日常を見直していく。

 

 

男性にはあちこちと痛いところを刺されて、

観ていられない映画なのかもしれません。

 

 

こんがらがって生きるのがつらい大人になりきれない大人へ

cinema.ne.jp

 

 作者が作品が生まれるまでのことを語っていた。

 

今作の主人公は最悪な状況で大切な人を失うわけですが、その過酷な状況を観ている人に“かわいそう”と同情される善人よりも、“ざまぁみろ!”と思われるくらいの、いけすかない奴で描いたほうが、その後の展開が期待できるだろうなとは思いました。

 

私や幸夫の抱えている一番大きなコンプレックスは、自分の仕事が社会の役に立っているという実感があやふやなところ。必要な物を必要としている人のところに届けるトラック運転手の陽一のような仕事に比べると、映画や小説などはどうしても「虚業」のようにも思えてしまう。

 

 

 初めから“許せる範囲の嫌な奴”だと、物語の先が見えてしまうし、面白くない。俳優さんでも、守りに入る人はたくさんいるんですよ。嫌な奴を演じてほしいのに、無意識に自分を救うようなお芝居になっちゃうような。

 

 

許せないような嫌な奴でも、子どもと関わる時はあどけない

表情を見せる。そんな人間臭さを表現するのに幸夫は

最適なキャラクターだと思います。

 

 

永い言い訳