【2019年本屋大賞】「そして、バトンは渡された」ーたくさんの〈親〉たちにリレーされて育った少女の物語ー
この記事は、昨夜発表された2019年の本屋大賞に選ばれた『そして、バトンは渡された』について書きます。
子どもの世界を教師として、母として見てきた著者が描く世界とはどのようなものなのでしょうか。
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本屋大賞とは何か。
本屋大賞(ほんやたいしょう)とは2004年に設立された、NPO法人・本屋大賞実行委員会が運営する文学賞である。
一般に、日本国内の文学賞は、主催が出版社であったり、選考委員が作家や文学者であることが多いが、本屋大賞は、「新刊を扱う書店(オンライン書店含む)の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定される。
2019年受賞作「そして、バトンは渡された」あらすじ
2019年本屋大賞受賞作!
たくさんの〈親〉たちにリレーされて育った優子。数奇な運命をたどったけど全然不幸じゃなかった少女の物語。
私には父親が三人、母親が二人いる。家族の形態は、十七年間で七回も変わった。これだけ状況が変化していれば、しんどい思いをしたこともある。新しい父親や母親に緊張したり、その家のルールに順応するのに混乱したり、せっかくなじんだ人と別れるのに切なくなったり。(本文より)
幼くして実の母親を亡くし、様々な事情で血の繋がらない〈親〉たちの間をリレーされ、四回も苗字が変わった優子だが、決して不幸だったわけではない!
〈親〉たちの愛を一身にうけて、〈親〉たちのことも愛して、いま十七歳の優子は幸せなのだ。
身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作!
いじめの問題は、学校側は絶対誰かしら気づいているはず
「いじめの問題は、学校側は絶対誰かしら気づいているはずです。中学校で言えば、クラス担任がいて、科目ごとに教科担任がいて、という具合に複数の大人の目がある。教室という閉じた空間で、誰も大人が気づかないということは考えにくいです」
子どものいじめに大人は気付けないと思う。
特に現代のいじめは「無視」が中心だから。無視されているかどうかは、本人にしか分からない。よって大人は寛容な環境を置かなくてはいけないのだが、教師は外の世界を知らない場合が多いからできない。
『そして、バトンは渡された』という作品は、実の両親がおらず、保護者が次々と代わり、4度名字が変わった女子高生が主人公だ。
一見、悲惨にも見えるこの設定だが、周囲はその主人公を優しく見守る。瀬尾の作品には、こうした大人の「優しさ」を感じるものが多い。その理由を聞くと、「私の周りには悪い大人はいなかった」という答えがかえってきた。
保護者が次々と変わる「一見」悲惨な状況だったとしても、周りの大人が身守れる人だったら悲惨にはならない。
そういう状況を望む声が多いから、この作品が受賞したのだと思う。